Fugue for String quartet
弦楽四重奏曲のためのフーガ
バッハをはじめとする、バロック時代のフーガ作品に強い感銘を受け、作曲された、LALARIEZEによるオリジナルフーガ3作品。
弦楽四重奏のためのフーガ
1番 ト短調
Fugue I in G minor for String Quartet
2番 嬰ヘ短調
Fugue II in F sharp minor for String Quartet
第33回全日本作曲家コンクール入選
3番 変ホ長調
Fugue III in E flat major for String Quartet
第34回全日本作曲家コンクール入選
LALARIEZE本人による曲解説
フーガ 1番 ト短調
主要提示部
私が2010年に制作した「氷の部屋」のサビのメロディを元にした主題旋律を、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンの順に提示し、主要提示部を形成します。主題旋律(主唱)は次の声部が主題導入を始めると、主題と絡み合う対旋律(対唱)を奏でます。対唱でシbを使用しているのは、一瞬転調していないように思わせる、ヴィヴァルディの「調和の霊感」第11番のフーガの影響を受けたものです。
4パートの主題提示後、上3パートが1.5拍ずつずれて、オクターブで追迫しますが、完全に主題を奏でず、後半を変形して次の下2声でのオクターブのカノンにつなぎます。
この段階でストレッタ的アプローチをしているのは、この楽曲がストレッタをテーマにした曲であり、その一番シンプルな形を最初に示すためです。このオクターブのカノンは後半のストレッタにおける伏線にもなっています。
嬉遊部1
2声オクターブのカノンの追行唱の終わりの「ミレドシ」を生かしたフレーズを嬉遊句に反復進行で展開し、平行調の変ロ長調につなぎます。
第2提示部
ここから主題の反行形が登場してきます。まず、先の主題を平行長調で奏でます。その後、平行調のまま今度はチェロが反行形主題を奏でます。
最後に平行調の属調(ヘ長調)に移り、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがそれぞれ主題と反行形主題を半拍ずれで奏で、平行調セクションを締めくくります。
嬉遊部2
対唱の半拍ストレッタの後、対唱で特徴的な上行音階をモチーフに、その周りを対唱の変形のような旋律が絡む形で展開します。嬉遊句は第2ヴァイオリン、ヴィオラ、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第1ヴァイオリンと受け渡され、最後はヴィオラと第2ヴァイオリンがハモってbVII調(ヘ短調)につなぎます。
第3提示部
ここからハモリが出てきます。まず、bVII調では対唱を第1ヴァイオリンが奏で、その下の2声(第2ヴァイオリンとヴィオラ)で主題(とそのハモリ)を奏でます。続く下属調では、上2声で主題、ヴィオラはその半拍前から反行主題を奏でます。その後、II調(イ短調)ではチェロと第1ヴァイオリンによる、主題と反行形主題の外声間ストレッタを展開します。第1ヴァイオリンによる追行唱は最初半拍で追いかけますが、途中で1音だけ拡大され、1拍のストレッタに変わります。第1ヴァイオリンの反行形主題のはみ出た上行音階を下3声に順に受け渡し、嬉遊部3へとつなぎます。
嬉遊部3
ここでは主題の中の「ミードシラーソーファー」を基にした嬉遊句を各声部に受け渡し、カノン風に展開します。その後、この嬉遊句前半と主題冒頭のフレーズで掛け合いをしながら反復進行で2度ずつ上昇します。最後に主調のト短調に帰っていったん終止します。
追迫部
追迫のアプローチはこれより前にもしておりますが、ここからさらにたたみかけるように主題がいくつも絡んできます。主題の拡大形も現れます。
まず、第2ヴァイオリンが主題を奏で、2拍遅れでヴィオラの拡大形主題がオクターブで追いかけます。この主題拡大形は最後まで続かず、さらに遅れて入ってきたチェロの主題が追いついたタイミングでバトンタッチし通常速度で締めくくります。さらにそのバトンタッチのタイミングで今度は第1ヴァイオリンが答唱を奏で、属調のカデンツを形成します。
属調に移った後は、今度はチェロが拡大形主題を展開し、その上をヴィオラと第1ヴァイオリンが主題とハモリをそれぞれ一部拡大と一部縮小で展開します。その後休んでいた第2ヴァイオリンが属調の下属音から主題を、その半拍遅れで第1ヴァイオリンが主題の反行系を奏で、第2部で行った反行形を用いた半拍追迫を拡大形上で展開します。
さらに、チェロと第1ヴァイオリンがそれぞれ主唱・対唱を奏で、そのそれぞれ1拍遅れで、ヴィオラ・第2ヴァイオリンが追いかけます。チェロはそのまま16分音のフレーズを続けやや転調的なフレーズでV保続音に到ります。
第2ヴァイオリンの属調での予備導入に導かれ、第1ヴァイオリンが主唱、その半拍遅れでヴィオラが答唱を奏でます。その流れを止めることなく第1ヴァイオリンは下属調に移り、半拍遅れで第2ヴァイオリンが主唱、さらにその1拍遅れでヴィオラがオクターブ下の主唱で追いかけます。ヴィオラの主唱が終わると、チェロは保続音から最後の拡大形を奏で、属九のゲネラルパウゼに到ります。
第1ヴァイオリンが即興風に見せかけた主題逆行フレーズから導音につなげ、最後はチェロのI保続音上で、主題を変形したエンディングフレーズをヴィオラと第2ヴァイオリンが奏でフーガが締めくくられます。
フーガ 2番 嬰へ短調
主題
今回も私の歌物の楽曲から「Autumn Memory」の旋律を主題に用いました。
出だしはバッハの平均律1-2や無伴奏ヴァイオリンソナタ2番のフーガっぽさがありますね。主題がV度音から始まるので、応答では出だしを変応させています。また、前回と違うパターンにしたかったので、テナーから始まるパターンにしました。
対唱
ここは非常に悩みました。主題に寄り添うような対唱も考えてみたのですが、どうしても良いものができず、我が道を行くような対唱になりました。
私の大好きなヴィヴァルディの調和の霊感11番のフーガのような対唱をという意識が常にありました。ただ、あれは反復進行でこちらの主題は反復進行でないので、そこは真似出来ません。それでも対唱だけ反復の要素があるというのも面白いと思い、上行音階を反復する形にしました。
直行4度や直行短9度もありますが16の裏で解決するので許容しています。
主題が大きな跳躍を含んで上下するのに対し、対唱はひたすら順次進行で上行するため、距離が近づいたり離れたりし、この緊張と緩和が非常に心地よい絡みを生み出せたなと思います。
嬉遊部1
結句の出だしと対唱の後半の旋律が絡むように反復進行を展開します。
第4導入の終わりの属調から主調に戻します。
第2提示部
ここからは反行セクションになります。
主調のままミの音を基準に反転させています。
バスがかなり高い位置にありますが、オクターブ下だとチェロの音域を超えるのでこうしました。たまにチェロの高い音域がはいるのも良いなと思います。
平行調の反行形を登場させた後、嬉遊部2につなげます。
嬉遊部2
対唱の出だしを嬉遊句に各声部で受け渡しながら展開します。
最後の嬉遊句は完結せずそのまま次の提示部の対唱につながります。
第3提示部
ここからは、ハモリが出てきますが、すべてハモるのは困難なので、自由唱の感覚で要所要所ハモってそれっぽく聴かせています。原曲「Autumn Memory」を思わせる要素もここから増えてきます。
第3提示部最初の主題は、調的には平行属調ですが、5度上(レド#レーラーシーソー)と聴こえるように提示しています。原曲「Autumn Memory」で出てくる主題のメロディの2度下反復を思わせるようにしています。
今回のフーガは派手な転調はしないので、再度属調へ戻ってきます。Vn1の主題は途中からVn2にバトンタッチし、Vn1はその3度上を奏でます。これも「Autumn Memory」の繰り返しの時にメロディーを変化させたのを思わせます。
嬉遊部3
嬉遊句は主題後半の「ミーレードシ」を使っています。
モチーフを散りばめつつ、嬉遊部全体を1・2よりスケールの大きいものにできたとは思います。嬉遊部後半は反復進行になり、モチーフも少し変化させています。
ストレッタ
ストレッタではフーガ中間部で出てきた主題の変形がすべて再登場します。
まず、主調での主題に、第2提示部の反行主題、さらに平行調の反行主題が追迫します。その後、対唱ストレッタを挟んでV保続音へ導きます。
V保続音上では主題→答唱の1拍のストレッタの後、属調、平行属調、主調での3声ストレッタを展開します。第3提示部同様、平行属調は5度上(属調主題に対して2度下)、属調主題は後半3度上で展開します。1小節遅れて追迫する主調の主題の途中でドッペルの属九根省のゲネラルパウゼになります。
ゲネラルパウゼ後は主題の逆行形を、属調と主調で半拍のストレッタを展開し、改めて属九に導いた後、I保続音上での主題変形でフーガを締めくくります。
フーガ 3番 変ホ長調
本作は、ストレッタの可能性を追求するものとして作曲しました。最初の提示部以外はすべてストレッタで提示されます。答唱は変応区間が長いのが特徴的ですが、これにより、長い主題でありながら、主唱答唱の完全なストレッタ、また反行形・逆行形のストレッタを可能にしています。(和声法で避けられる短2度→同度への斜行(転回した長7→完全8)は本作では許容しています。)
4声の提示が終わると、短い推移をはさみ、上2声で主唱と答唱のストレッタが行われます。次に属調に転調し、下2声で反行形のストレッタが表れます。主題の特徴的なリズムをモチーフにした嬉遊部1の後、下属調に転調し、Vn1とVlaで逆行形のストレッタ、VcとVn1で逆行形と通常の主題でのストレッタが現れます。
続く嬉遊部2は嬉遊部1と声部を入れ替え、Vcのオクターブ跳躍が減8度跳躍に変更させています。嬉遊部2が終わると、内2声で主唱答唱の2声ストレッタを途中から挟むように外声間ストレッタが登場します。
フーガの構成を図に表すと以下のようになる。
各声部が他の声部とそれぞれ1回ずつストレッタし、全て違うパターンのストレッタという構成は、ストレッタをテーマにしたフーガとしての一つの理想形であります。